「靴型装具の悩み相談室・福岡」
開室にあたって


福祉でまちがよみがえる会 理事
田中 隆基


13年の経験

 私は、13年間にわたり、「履ける靴がない、歩ける靴がない」という悩みをお持ちの多くの方たちに、「足と靴の相談室ぐーぱ」の技術責任者として靴を提供し、喜ばれてきました。
 その方たちの多くは、市販の靴で歩けない、というだけではなく、身障者手帳をお持ちで下肢装具や靴(靴型装具)を作られたり、また、リウマチ等の病気のために病院で靴(治療用靴型装具)を作られたりしても、歩けないという方たちでした。
 なかでも、患者さんに提供される治療用装具が痛くて履けない、それどころか、症状を悪化させることもあるという、義肢装具士が提供する靴の現状に苦慮されていた近郊の医師からの依頼で作製したケースがその多くを占めています。

福岡県立大学の成果

 私たちが提供する靴は、福岡県立大学が、10年以上にわたって、医療・福祉靴の専門技術者・研究者を招聘して開発し、普及活動を進めてきた靴です。
 福岡県立大学が招聘した技術者・研究者の所属する靴総合技術研究所は、障害や疾病で歩行困難な人たちのために1世紀前のドイツで確立した整形外科靴技術という、解剖学的、医学的根拠に基づく靴技術を、日本に普及することを目的に活動しているNPO法人です。

 日本においては、靴に対する「歩行具」としての認識が希薄であるため、足・脚の障害や疾患による歩行困難に対しては、靴の技術で対処することにはならず、靴技術を習得する機会のない義肢装具士が装具で対処するのが一般的です。そのため、「靴型装具」の名が示す通り、個々の障害に対する装具機能は考慮されても、本来の歩くための道具としての靴の機能性が欠如した「形だけの靴」になり、結果として使い物にならない現実が放置され続けています。
 その現実を苦慮し、改善の必要性を強く感じていた福岡県立大学の教員有志が、靴総合技術研究所の技術を福岡県下に根付かせるために、全学横断的に附属研究所にプロジェクトを設置し、10年にわたり多様な活動を展開してきました。

 プロジェクトが、この活動に際して重視したことは、靴そのものの開発だけではなく、特に、靴を提供するために一人一人の足と脚、そして歩行の状態を把握し、個々人のために最適な靴の機能を見極めることのできる技術者の養成でした。
 私たちは、この県立大学のプロジェクトに当初より積極的に参加し、その中で学び、身に付けた「靴の提供技術」によって、プロジェクトが目指す福岡県下への技術の普及を大牟田の地に根付かせるために、2008年に「足と靴の相談室ぐーぱ」を開設しました。
 それ以後、県立大学に設置された「足と靴の相談室」とも連携して両輪の一方として、県内はもちろんのこと、熊本、大分等の近県の障害者、医師からの要請に応えてきました。

 その後、県立大学のプロジェクトが10年をもって終了し(2016年)、学内組織改編に伴い「相談室」も閉室(2019年)となり、今では、私たちが、大学の成果を引き継ぐ拠点として奮闘しています。

新たな活動として

 そのような中で、この度、私たちは、プロジェクトに関わってきた大学関係者、医師、靴総合技術研究所とともに、県立大学が切り開いた福岡での10数年にわたる活動を振り返り、私たちの大牟田での継続した活動とその成果の蓄積を踏まえて、新たな活動に踏み出すことになりました。

 開始されるべき新たな活動としては、県立大学が担っていた市民に開かれた技術者育成や、多様な啓発活動の場をどのように継承していくか等々、多くの議論がなされ、現在も議論は継続中です。
 その中で、まず確認されたことは、何よりも、「靴でこれだけのことができる」という事実を周知する、ということでした。当事者が実際に履いて体験するまで理解されない、「靴でそんなことができるはずがない、障害には装具だ」という、当事者も含めた日本社会全体の靴に対する認識不足への対処こそが、活動の前提だということです。

 そして、特に私たちの靴技術を評価し、患者への提供を進めてきた医師からは、
日本の制度上、補装具は医師の責任で提供されるとはいっても、「靴型装具」に関しては、それを整形外科靴技術として十分に理解している医師はほとんどいない、
だから、自らが処方指示を出した「靴型装具」を患者が履けずに困っても、義肢装具士に「何とかしろ」と言うことしかできない、
その結果、患者の方も「医者が専門の技術者に作らせてもダメなのだから、これ以上は無理」として、諦めるケースがほとんどであるため実態が表面化してこない、
したがって、この技術に対する認知度を高めるためには、
まず、困っている患者の声を拾い、真摯に相談に乗り、一つ一つ具体的にアドバイスする場が必要だ、
との要請が出されました。

遠慮なくご相談ください

 そこで、私たちは、活動の事始めとして、「靴型装具」を作ったが、あるいは使っているが、痛くて履けないとか、不安定で歩きにくい、等々の悩みをもっておられる方たちが、遠慮なく相談できる開かれた場を開設することにいたしました。

 更生相談室による判定に従って装具業者から靴型装具を購入し、適合判定を受けてはいても満足できず、業者に訴えてもこれ以上の改善は無理と言われた、等々、また、疾患による変形で履ける靴がなく、医師の指示で病院専属の装具業者に靴型装具を作ってもらったが痛くて歩けず、業者が手直ししても結局履けるものにならなかった、等々。
 あるいは、短下肢装具などの装具の作製指示が出ているが、できれば、装具なしで対処できる靴の作製ができないか、等々。
 また、意外に多く、そして軽視されがちなのが、病院や手帳で短下肢装具などを作ったが、履いて歩ける靴がない、あるいは、装具用として一緒に購入したが、歩きにくい、装具業者や医師に相談しても、装具をつけているのだからしようがないと言われた、等々の例です。

 いずれもが、靴に対する「歩行具」としての認識がない日本ではやむを得ない現実ではありますが、靴を履かない人がいなくなった現代日本が、いつまでもそれで良いわけがありません。特に、歩くことが困難な障害や病気でお困りの方たちにとっては、このような現実が放置されていて良いはずがありません。

 どんなことでも、ご遠慮なく、ご相談ください。
 整形外科靴技術に詳しい医師と連携し、行政との交渉のサポートも含め、一人ひとりにとっての最良の歩行が実現できるように、アドバイスさせていただこうと考えています。
2021年11月

掲載された関連記事

『リハビリテーション』N0.626(最終号/2020.09) に、
レポートが掲載されました。

☆『西日本新聞』(2020.6.18./6.25./12.24.)に
取り上げられました。
1/ 2/ 3/

『しんぶん赤旗』(2021年9月28日) に、
取り上げられました。



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