2002年5月 第15号掲載

安ければよいのでしょうか?

ある日本企業が1足90円のスニーカーを中国で作っている、という記事が朝日新聞に載っていました。
中国の農村部の低賃金労働を利用して野菜や日用品が作られ、安いからという理由だけで日本の消費者が飛びつき、その結果、競争に負けた国内の産業が衰退し、使い捨てで大量のゴミが出る……
私たち皆が、深刻に受け止めなければならない問題ですが、足と靴の問題としても、これは見過ごすことのできない事態です。
低価格を実現するために、構造を極力単純にし、格安の素材のみで作れば、格好は「靴」でも、およそ「靴」とはいいがたい代物にならざるをえません。靴は、全体重を受け止め、体を支え、足を運ぶための道具。硬い道を歩くためには、しっかりと骨格を支え、衝撃を吸収する機能を備えた靴が必要です。
はいている感覚のない超軽量のふわふわしたスニーカーは、「軽くて楽な靴」と思いがちですが、足のバランスを失い、膝、腰など体全体に悪影響を及ぼします。軽い靴ばかりはくうちに筋力も衰え、弱い靴底は足や体の歪みに応じて磨り減ってしまい、ますます足のトラブルを増幅します。
安いものが追い求められる風潮の中で、偽装表示や禁止薬品の使用等々の違法行為がまかり通る昨今、「安ければよい」ではなく、「安いから問題があるのではないか」と疑ってみることが、私たちの健康や環境を守り、人間的な暮らしをつくることにつながるのではないでしょうか。 
vol.15(2002年9月20日)より